ホワイトスネイク
宿命を背負った白蛇の咆哮:ホワイトスネイクの変遷と美学
ロックの歴史において、これほど劇的に、かつ鮮やかにその姿を変容させてきたバンドも珍しいでしょう。「ホワイトスネイク(Whitesnake)」。その名は、リーダーであり絶対的な主宰者であるデイヴィッド・カヴァデール(David Coverdale)の歩みそのものです。
ブルーズの魂から、世界を射抜くプラチナム・ロックへ
ホワイトスネイクの物語は、1970年代後半、カヴァデールがハードロックの巨人「ディープ・パープル」を脱退したところから始まります。当初の彼らが鳴らしていたのは、湿り気を帯びたブリティッシュ・ブルーズ・ロックでした。ミッキー・ムーディやバーニー・マースデンといったギタリストを擁し、渋みのあるヴォーカルと土着的なグルーヴを武器に、パブやクラブの空気感を引きずった「大人のロック」を展開していたのです。
しかし、80年代の足音が近づくにつれ、カヴァデールの野心は巨大なアリーナへと向かいます。彼はメンバーを大胆に入れ替え、サウンドをよりメタリックで華やかなものへと研ぎ澄ませていきました。その頂点が、1987年に発表されたセルフタイトル・アルバム『Whitesnake(サーペンス・アルバス〜白蛇の紋章〜)』です。MTV時代の波に乗り、ブロンドの長髪をなびかせ、圧倒的な歌唱力でバラードを歌い上げるカヴァデールの姿は、ハードロックを象徴するアイコンとなりました。
ホワイトスネイクが単なる「流行のヘア・メタル・バンド」に終わらなかった理由は、その「トライ・アンド・エラー(試行錯誤)」を厭わない強固な姿勢にあります。ジョン・サイクス、スティーヴ・ヴァイ、エイドリアン・ヴァンデンバーグといった稀代のギター・ヒーローたちが入れ替わり立ち代わり参加し、その時々の最高峰の技術をバンドに注ぎ込んできました。カヴァデールという中心軸はブレることなく、常に「最高のエンターテインメント」を追求し続けた結果、彼らは40年以上にわたってシーンの第一線に君臨し続けたのです。
近年の彼らは、カヴァデールの喉の不調やパンデミックの影響もあり、ツアー活動の休止を余儀なくされていますが、その楽曲の輝きは一切失われていません。むしろ、デジタルの時代だからこそ、彼らがかつて生み出した「計算され尽くしたダイナミズム」と「血の通ったエモーション」は、より一層の価値を放っています。
ホワイトスネイクを深く知るための推奨アルバム3選
膨大なディスコグラフィの中から、彼らの変遷を語る上で欠かせない「マイルストーン」と言える3枚を選びました。
1. 『Ready an’ Willing』 (1980年)
—— 英国ブルーズ・ロックの至宝 ——
初期ホワイトスネイク、いわゆる「ミッキー&バーニー時代」の傑作です。ディープ・パープル時代の盟友ジョン・ロード(Key)とイアン・ペイス(Ds)も参加しており、重厚かつグルーヴィな演奏が楽しめます。
代表曲「Fool for Your Loving」が象徴するように、失恋の痛みや男の哀愁をブルージーに歌い上げるカヴァデールの真骨頂がここにあります。汗の臭いが漂ってくるような、埃っぽいブリティッシュ・ロックの魅力が凝縮された一枚です。
2. 『Slide It In』 (1984年)
—— 転換点となった野心作 ——
ホワイトスネイクが「アメリカ市場」を見据え、そのサウンドを洗練させ始めた重要作。特に1987年の大成功に繋がる布石として、ジョン・サイクスの硬質なギター・プレイが加わったアメリカン・ミックス盤は必聴です。
「Love Ain’t No Stranger」や「Slow an’ Easy」など、ブルーズの土着性とハードロックの鋭さが絶妙なバランスで同居しています。古い皮を脱ぎ捨て、新たな姿へと脱皮しようとする白蛇の力強いエネルギーを感じさせる作品です。
3. 『Whitesnake / 1987』 (1987年)
—— 世界を制覇した究極のハードロック ——
全米で800万枚以上のセールスを記録し、彼らを不動のトップ・スターに押し上げた歴史的名盤。邦題は『サーペンス・アルバス〜白蛇の紋章〜』。
オープニングの「Still of the Night」における劇的な展開、そして全米No.1を獲得した不朽の名曲「Here I Go Again」の再録版など、全曲がハイライト。カヴァデールのヴォーカルは最も艶やかで、ジョン・サイクスによるギター・ソロは精密機械のような正確さと熱狂を併せ持っています。80年代ロックの「一つの到達点」と言っても過言ではありません。
おわりに
ホワイトスネイクの歴史は、変化を恐れず、常にその時々の「最高」を模索し続けた男の歴史でもあります。初期の渋いブルーズに浸るもよし、全盛期の華やかなアリーナ・ロックに酔いしれるもよし。どの時代の扉を叩いても、そこにはデイヴィッド・カヴァデールの誇り高き咆哮が待っています。
